December 9


  師走に突入して間もない、寒風吹き荒ぶ放課後の自転車置き場で、俺を呼び止めたのは、どうにも耳にキンキン響く、しかし聞き慣れた声だった。
 なんだ、岡田じゃん、と言いかけた瞬間、まるで決闘の手袋よろしく投げつけられた「それ」を受け止められたのは、ほとんど奇跡としかいいようがない。

 か、勘違いしないでよね。
 これはあれよ、その、こないだ100円ショップで毛糸が売ってて、つい衝動買いしちゃって、とりあえず一番簡単そうなマフラーを編んでみたんだけど使うあてがないから、いつも寒そうな格好してるアンタにあげるだけなんだからねっ。
 いつもにまして突っかかるような言い方をする彼女の頬が赤いのは、木枯らしよろしく吹き荒れる風のせいなのだろうか。
 間違っても、アンタに気があるとか、そういうわけじゃないんだから。分かった?
分かった分かった。……それにしても編み目粗いなこれ……向こうが透けるぞ?
 ……ちょっと、文句言うなら返してよ。
 いやだ。
 いやだ? じゃあ使いなさいよ。これでちょっとは風しのげるでしょ。
 いつも自転車通学のクセに上着も着ないで、見てる方が寒くなるわよ。
 そうなのか? そりゃ悪かった。
 ……次は手袋に挑戦するから、また編みあがったらあげるわよ。
 じゃあ、なんかお礼しないとな。
 え? お礼? ……そんなのいいわよ。
 そんなわけにはいかないだろ。物もらっといて。
 じゃあ……そうね。今度の土曜日、クリスマスプレゼントを買いに行くのに付き合いなさい! いいわね?
 返事も聞かずに踵を返した彼女の、その横顔がどこか嬉しそうだったのは、とうとう風に混じって舞い降りてきた、気の早い風花が引き起こした錯覚だったのだろうか。

Story by seeds



 テーマは「ツンデレ」です(爆)
 そういやうちのキャラにはこういうタイプっていないなー、と思いまして。書いてみたらどうなるんだろうと思ったら、なんだかすごく典型的になってしまったような(笑)
 いやに空白があるなあ、と気づいてくださった方はするどい! 全文を反転して見るとまた違った感じの作品になるかと思います。


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